色々感想を書いて置いておく場所

おっさんが色々感想を書く場所

獣の棲む家

メモ:メダカは順調に成長中。そろそろ冬ごもりか。

 

獣の棲む家 2020

監督:レミ・ウィークス

主演:ウンミ・モサク

ショペ・ディリス

マット・スミス

マラーイーカー・ワコリ=アビガバ

 

ストーリー

:ウンミさん演じるリアルと、ショペさん演じるボルは内戦を逃れ、イギリスに亡命した。

監査付きという条件で、家をあてがわれ二人はそこに住み始める。

だが、その家の壁の裏から声が聞こえ始め……

 

感想:バレ無し

ううん、やりたいことは判るけども、これはちょっと失敗してるかな。

なんちゅーか、テーマと表現、着地地点が全部バラバラ

有機的に繋がっていないかな、と。

オチはとても素晴らしいんだけども、あのラストならば

途中までのショック描写は素晴らしいけども過剰すぎる

このオチに行くならば、難民問題は

家から出れない

二人を精神的に追い詰める

という、ただのホラー映画の道具になってしまっている。

難民ならではのホラーになっていないのだ

つまり、ぶっちゃけ

このオチなら二人が難民でなくてもよくね?

となってしまうんだな。

ゆえに、感動とかそういうものが湧くよりも

ん? んん?

と首を捻っちゃうんだよなあ。

 

 

以下ネタバレ感想

 

 

 

 

よーするにですね

あのアペスという怪物は魔術師でもなんでもなく

二人の罪悪感が生んだイドの怪物みたいなものなんですな。(妻の話を夫が聞いてから形をとったわけです

で、夫が自分の肉をささげてアペスを呼ぶのは

夫が過去と向き合う象徴

妻がアペスを殺すのは

妻が過去と決別する象徴なんですね。

夫は、他人の子供を利用して国外脱出し、あげく成り行きだけど

子供を見捨ててしまったことと、最後にようやく向き合えた。

妻は、実は知人を全員虐殺され呆けていたところを夫に助けられたのだけど

それでも、その知人たちがいた国を心の奥で懐かしみ

イギリスの人を見下していた

これ、迷って道を聞くシーンなんて顕著ですよね。

ボールを蹴る小さな白人の子供には道を聞かないんだけど、黒人の少年たちには走り寄って聞くんだわ。

まあ、その結果が実に皮肉でね、黒人の少年たちに国に帰れって罵倒されるんだよね。

ちなみに白人の子供は、散々迷って別の道を行ったら、その先でボールを蹴ってました。(つまりこの子に聞けば、全部問題は解決していた

で、イギリスに順応しようとする夫の行為は全て馬鹿々々しく

自分の美化された故郷に焦がれるあまり、強制送還してくれなんて言い出すわけだよ。

もう誰も知ってる人がいない故郷にね。

 

ね、ここら辺のお話をもっと深く切り込んでいったら

面白そうじゃないの?

じわじわと狂気に侵されながらもって定番だけど、難民問題に絡めれば新鮮さもあるし、心にグッとくるはずだな、と。

実際、ボルが食事している場面で、カメラがぐーっと引いていくと

いきなり大海原にポツンとボルとその周辺の壁とテーブルが浮いている、なんて実に幻想的かつ象徴的なシーンがあったりするのよ。

でも、ダメなんだよこの映画

これらを全部、霊現象の前振りにしちゃうの。

いや、終わってみれば

霊現象じゃなくて全部幻覚なんだけどもさ。

で、それから、イドの怪物が出てきて、罪悪感との対決になっちゃうのね。

そこで、そういう話にしちゃうと

難民じゃなくても成立する話に切り替わっちゃうんだよ。

アペスがイドの怪物じゃなくて、本当にアフリカの呪術師で、夫が子供を盗んだから追ってきた、の方が多分難民問題を提起するホラーとしては正解だったんだよ。

 

最後の広かった家も亡霊で一杯ですって描写もさ

あれは忘れたい過去も含めて、全部俺達だ

ここは俺たちの家だから

そういうものがいるのは当然だって描写なわけだけど

前半から中盤の過剰すぎる幽霊描写で、かなり台無し感が強い。

まあ、一連の描写も夫がどれだけ過去に対して罪悪感を感じていたかっていうことで、終わってみれば

善人二人が善人であるから悩んで苦しんだ

っていう珍しい映画になっているんだけれども。それだったら、もうちょっとドラマ中心で、エンタメホラーに振ったような描写は控えるべきだったと思うのだが。

おぼれ死んだ子供が、部族の面をつけてナイフをもってとびかかってくる!

ってのが、まあ、浮いてる浮いてる

 

アペスもねえ……もろ、レックの最後のアレだし、なんだかなあ。

 

いや、良い所もあるんだけどもね

例えば後半、断片的に表現されていた二人の過去が、長回しになると全然違う意味を持ってくるところとか、謎解きとしてよくできてる。

特に観ている側のヘイトを一身に背負う後半の奥さん

実は旦那に助けられて、一緒につらい行程を経て

子供を誘拐した時も、黙認していたこと思い出し

ようやく現実が見えて

あたし、もう行くわ

という所は、ベタだけど大変すばらしい。ウンミさんの演技ともあいまって、あそこはクライマックスとしてかなりアガる

その後に、アペスに唆されていた(というか実は自分がそう思い込んでいた

旦那に向ける予定だったナイフを使って

自分たちの罪悪感やすれ違いが凝り固まってできたアペスの首を掻っ切るシーンも最高である

その後に、旦那と一緒に家の修繕をして(ここで、アペスが出てきた床の穴を敷物で見せない演出もかなり良い

ああ、これなら通りで話しかけられるなって雰囲気に夫婦が最後なってるところとか

二人とも演技が凄すぎる

そう!

ここらクライマックス辺りの、二人の演技はぐんぐん引き込まれるものがあり必見だと思うのよ!

思うんだけども、前述のちぐはぐな全体像に、終わった後に

なんだこれ……

という感想が出てしまうんだよなあ。

実にもったいない

そんな映画。

 

以上!