メモ:突然、星新一が読みたくなる病。
チェルノブイリ 2019
監督:ヨハン・レイク
主演:ジャレッド・ハリス
ポール・リッター
ストーリー
:1986年4月26日、ウクライナ・ソビエト社会主義共和国のチェルノブイリ発電所で事故が発生する。
ジャレッド・モリアーティ・ハリスは俺たちのスカルスガルドおじきと現場に向かうが、状況は絶望的で――
*注意
今回はいつにもまして、罵っています。
ドラマ・チェルノブイリが好きな方は直ちに離脱してください。
感想:表面的な事について
美術、役者の演技は最高級。サスペンス描写や次回への引きも完璧ですね。
きっちりしていて隙が無く、陰影の使い方も巧い。
冒頭からオチまで、一直線に引いてあるレガソフの話がきっちり終わっているのも良い。当たり前のことを当たり前として堅実にやっているので、素晴らしいと思います。
以下、どうして私がこのドラマを便所の紙以下の存在と唾棄し
見たことを死ぬほど後悔したか
こんな卑しい作品が世の中にあっていいのだろうか、なんてカッコつけて書いちゃいますけど、まあ、この作品よりも卑しくてひどい作品もあるっちゃある。
だけども――
世界的な悲劇の実話を
ドラマを面白くするためだけに
改変してしまうというのは最低な行為だろう。
例えば、事故を引き起こしたのは
シフト班長ディアトロフの個人的な暴走みたいに描かれている。
これは、実際の事故直後、旧ソヴィエトが発表したものと同じで
要は、事故は人為的な操作ミスが原因だというものだ。
これは、後に正式に、原子炉の欠陥が原因と訂正された。ディアトロフは名誉回復のために何年も費やすことになったという。
このドラマはなんと、旧ソヴィエトが発表した説と今の説をミックスして、せっかく回復した、ディアトロフの名誉を本人の死後に踏みにじるのだ。
ちなみにディアトロフは入院した後、症状が軽かったんで、他の運転員と「なんで事故が起きたか」を話し合ったりしてる。
ドラマのように質問に答えない、なんてことは全然なかったのだ。
また所長のブリュハーノフも悪役として無能な人間に描かれているが、ソヴィエトにおいては原発を作る際に、まず所長が市ごと作るところから始める。ブリュハーノフは市に尽くすあまり、運営がおろそかになっていたというのが本当の所なのだ。しかも、事故の時期は連邦政府から無理難題を吹っ掛けられて大変だったらしい。
フォーミン技師長(所長と一緒に怒鳴ってた人)に至っては、バルコニーから落ちて脊髄損傷し、ようやく復帰したばかりでヨレヨレだった。
主人公レガソフの描写に至っては噴飯ものだ。
予告を見た時、まさかレガソフが主役なわけはないよな、群像劇なんだよなと思っていたら、まさかの主役。
実際のレガソフは、ヘリに乗って被ばくもしてないし、世界に状況を伝えようとするゴルバチョフをたしなめて発表を阻止し、ウィーンのIAEA会議で原子炉の欠陥には一切触れずに、運転員たちの過失を列挙。
しかも自慢げに
原子炉がとんでもないことになっちゃたけど、どうですか! 残った部分の耐久性は!!
みたいな演説をぶちかまし
だけども、うっかり報告書に原子炉の改良点を書いちゃって、なんじゃこりゃと記者団に質問攻めにあっちまい、裏でアメリカと取引してデータを渡し、代わりに運転員の過失説を支持させるという下種の極みみたいなことをやった人なのよ。
いや、最終的にレガソフはドラマのように首を吊るんだけども、場所は地下室じゃないし、一緒に住んでる家族が発見者だし、録音テープは記者との対談なんだよ。
勿論、ドラマ最後の裁判になんて出るはずもなく、自殺の原因も権力争いの果てに、後ろ盾が失脚し、元々エリートでプライドが高かったからの自殺だ。
しかも権力争い失脚の原因は、研究所の所員たちを失脚させたりしていたから嫌われていて、落ちると判っていて選挙に押しされた末の落選ってのが真相。
で、一度自殺未遂をして、後にやけになって記者と対談という流れになるわけだ。(この対談を踏み台に自分で安全研究所を作ろうとしたが、この時後ろ盾が失脚。師匠のアレクサンドロフは一度面子を潰されているので手を貸さない)
どこにでもあるエリートの転落の果ての自殺なんだよ。
KGBの監視なんて勿論ない。
だってKGB側だから。
犬を銃殺する描写は、今まで読んだことも聞いたこともない。
あったのではないかな、とは思うけども、確かチェルノブイリ事故後にペットが野生化してるのを、保護団体が助け出し、線量を測定したらほとんど汚染されてないってのが判った記事なら読んだことがある。
だとするならば、あそこで掃討隊の若造は犬を見逃すのがリアルだったのではないか?
ていうか本当に、やったのこれ?
原子炉の地下タンクに入るくだりも、あれの前にすでに十人近くが入っていたという記事を読んだことがある。しかもあの三人が入った時は、水はほとんどなかったとか。
チェルノブイリに関する本は結構出てるんだけど、このドラマは後に完全にひっくり返るでっちあげの話を基にしている。
そんな完全に創作なレガソフが
真実は……
なんて悩むなんてちゃんちゃらおかしいよ。
このドラマの制作陣がやってる事は、旧ソヴィエトがやってる事、ドラマの中での悪役、KGBがやってる事なんだよな。
そういう意味で、このドラマを実録だと信じる人を嘲るために作ったんならば、そりゃ大したもんだけど、違うでしょう?
安いスリルとサスペンスが目的でしょう?
事故直後、橋の上で見物する人たちの上に死の灰が大量に降り注いで、子供がその中で楽しそうに踊るなんてシーンがありましたが、あれ実際は夜中だから、見物人はほとんどいなかったんですな。あれだけ大量に死の灰かぶったら、病院なんていけねえだろうし。(橋にいた人たちは、確か症状は軽かったはず)
とはいえ
あれは、これから子供たちに起こる悲劇を象徴的に描いているわけだから、ああいう表現は良いんだよ。これぞドラマって感じでさ。
また、当たり前だがドラマのように小人数しか科学者がいないなってことはなかったわけだけど(レガソフは科学者の一団のまとめ役の一人だった)それを一まとめにして架空のキャラにしたってのは良い判断だと思う。話の進行がスムーズになるからね。(でも群像劇で大混乱していく現場の描写の方が本当なんだけども)
だからこそ、こういうことができるのに、チェルノブイリにインスパイアされた、架空の原発事故にいくらでもできたのに、チェルノブイリのままでいったってことは、つまりはそういうことでしょう?
ほんと、作った奴らクズだわ。
ちなみに事故を起こした型の原子炉は、あの裁判の時点ではすでに簡易的ではあるけども改修済みのはずです。裁判でいまだに誰も手を付けない、認めないとか言ってたが、公表してないだけでとっくに手は打ってあったわけだ。(だからこそ運転員たちは悪者にされるわけですな)
誰がGOサイン出したか知らねえけども最低のドラマですわ。
下種の極み。まー、胸糞悪い。
そんな感じ。
乱文にて失礼いたしやした。
以上。
ええっと読んだ本を全部は思い出せないけども
『検証チェルノブイリ刻一刻』
『原発事故を問う』
その他多数。
東日本大震災を機に読みました。
90年(くらいかな?)よりも前に出た本を読むと、運転員のミス説ってのになってて中々闇が深いですな。
あとディアトロフはジャトロフになっていますので、ご注意。